大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和40年(手ワ)2805号 判決 1965年11月11日

原告 株式会社自由国民社

被告 金谷昭一

主文

被告は原告に対し一二〇万円およびこれに対する昭和四〇年六月一四日以降、右完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行できる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決および仮執行の宣言を求め、請求の原因として、

原告は、被告が原告に対して振出した次の約束手形一通を、満期に支払場所に呈示したが支払を拒絶されて、現に所持している。

金額 一二〇万円

満期 昭和四〇年六月一四日

支払地 東京都新宿区

支払場所 株式会社三和銀行大久保支店

振出地 東京都墨田区

振出日 昭和三九年九月一六日

振出人 被告および金谷印刷工業株式会社

受取人 原告

よつて、原告は、被告に対し右手形金一二〇万円および右金員に対する満期以降完済まで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める、

と陳述し、被告の主張立証に対し、

被告の主張第二項の事実は、原告が損害額を一二〇万円としてその賠償を求めたとの点、および特約の点を否認し、その余は認める。原告が当初申し出た損害賠償額は一二〇万円をはるかに超えるものであつたが、交渉の結果昭和三九年九月一六日これを一二〇万円とすることとして和解が成立したものである。

第三、四項の事実は否認する。

と述べた。

<立証省略>

被告訴訟代理人は、「請求棄却、訴訟費用原告負担」の判決を求め、答弁として、

一、請求原因事実はすべて認める。

二、本件手形は、損害金の支払を担保する目的で振出したものである。すなわち、被告は、訴外金谷印刷工業株式会社の代表取締役であるが、右訴外会社は原告との印刷請負契約に基づき、原告から印刷用紙を預り印刷用オフセツト製版を製造し原告に印刷物を納入していたところ、昭和三九年七月二三日訴外会社は失火により原告から預つていた印刷用紙(一〇万円相当)および訴外会社が製造したオフセツト製版を焼失してしまつた。そこで、原告は印刷を他社に注文せざるを得なくなつたのであるが、その結果、原告は一二〇万円の損害を受けたとしてその賠償を請求したので、訴外会社および被告は、原告との間において、一二〇万円の限度内で損害額が明確になつた場合に当該損害金相当額のみを支払う特約のもとに、共同で本件手形を振出したのである。

三、ところが、焼失したオフセツト製版は訴外会社の所有であるし、原告には特段の損害が発生していなかつたから、被告には本件手形金の支払義務はない。

四、かりに、被告には本件手形金の支払義務ありとしても、訴外会社は原告に対し九万八、〇〇二円の印刷代金債権を有するところ、被告と訴外会社は本件手形の共同振出人であるから、被告は本訴(昭和四〇年九月三〇日の本件口頭弁論期日)において、原告に対し右代金債権と本件手形金債務とを対当額において相殺する旨の意思表示をなした、

と陳述した。<立証省略>

理由

一、原告主張の請求原因事実は当事者間に争がない。

二、被告の主張第三項は、その前提となつている同第二項の特約の事実を認めるべき証拠がないから、第三項の事実につき判断するまでもなく排斥を免れない。

三、同第四項は、次の理由から、主張自体抗弁としての理由なきものとして排斥する。

約束手形の共同振出人は、基本手形が同一であるにせよそれぞれ別個の手形行為をなすものであるから、これに商法五一一条を適用する余地はなく、手形法七七条、四七条により合同責任を負担するものと解すべきである。したがつて、共同振出人の一人は、債務者間に負担部分の存在することを前提とする民法四三六条二項により、他の共同振出人の反対債権をもつて相殺を主張することは許されないものというべきである。

四、そこで、前示請求原因事実によると、原告の請求は正当であるからこれを認容することとし、民事訴訟法八九条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 奥平守男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例